【1】本研修の目的・概要


 本分科会では、DSP(Digital Signal Processor)を用いた、ディジタル 信号処理の実験・実習を行います。

最近では、半導体技術およびコンピュータの急速な発達により、インターネットや マルチメディアを始めとするIT(情報技術)革命が起こりつつあります。 そこでは、あらゆる情報はディジタル化され、それをいかに効率良く 処理するかが重要に なっています。その中で、DSPと呼ばれるディジタル信号処理専用の プロセッサが急速に普及してきています。

では、DSPとは一体何でしょうか? DSPとは、通常のパソコンに内蔵されている マイクロプロセッサ(例えばIntelのPentiumなど)のように、プログラムを 与えることにより様々なディジタル信号の処理を行うことのできる半導体チップの ことを指します。しかし、通常のマイクロプロセッサとの一番大きな違いは、DSPが 特に「ディジタル信号処理を高速に行う」ために設計されている、ということ でしょう。DSPでは、ディジタル信号処理で多用される足し算や掛け算と いった数値演算を特に高速に(パイプ処理などを用いて並列に)行うことができます。

DSPは、現在様々な場所で用いられています。身近な例で言えば、携帯電話には DSPが内蔵されて音声圧縮や暗号化などが行われ、またMD(ミニディスク) などのディジタルオーディオにおける音楽圧縮や、DVDでの画像処理などにも DSPが活躍しています。

本実習では、アナログ・デバイセズ社の入門用DSPボード「SHARC EZ-KIT LITE」を用いて、DSPによるディジタル信号処理の基礎を学んでもらいます。 この実習用ボードはシリアルポートを介してパソコン(PC)と接続されており、 DSPの詳細な動作原理やマシン語の命令を知らなくても、C言語でディジタル 信号処理のプログラムを作成するだけで、DSP上で実行できるようになって います。また、このDSPボードは最高48 kHzサンプリングで16ビット ステレオのA/D変換器およびD/A変換器を搭載しており、音声周波数帯域の 信号に対する高品質なステレオ信号処理を行うことができます。

本実習では、このDSPボードの基本的な使い方から始めて、アナログと ディジタルの違い、周波数スペクトルとディジタルフィルタ、さらに少し 高度な信号処理を行うプログラムを作成してもらい、それにより実際の音声が どのように処理されるかを実験します。それらを通して、DSPによる ディジタル信号処理の世界をいくらかでも体験してもらうことができるでしょう。