5-4. 変調

高周波の信号に、低周波の信号の持つ情報を載せることを、変調と います。例えばAMやFMなどのラジオ放送では、低周波の音声信号が 高周波(数百kHz〜数十MHz)の電波に載って伝送されています。音声信号が持つ 周波数範囲は20 kHz以下の低周波であり、そのままでは放送局のアンテナからは ほとんど放射されませんが、変調をかけて数百kHz以上の高周波信号に変換すると 効率良く放射されるようになり、放送波として遠距離まで届きます。 ラジオで受信された放送波(高周波の変調信号)は、ラジオ内部で再び低周波の 音声信号に変換されて、スピーカなどから音として聴こえるようになります。

高周波の信号(正弦波)は、振幅、周波数、位相という3つの値を持っていますが、 これらそれぞれに低周波信号の情報を載せる方式を、振幅変調(AM)、 周波数変調(FM)、位相変調(PM)と呼びます。 ここでは、DSPを利用して、ディジタル的に振幅変調器と周波数変調器を 作成してみます。


5-4-1. 振幅(AM)変調

振幅(AM)変調は、AMラジオなどで用いられている変調方式です。 低周波の入力信号の変化に応じて、高周波の正弦波の振幅を変化させます。 入力信号がプラスになる部分では振幅が大きくなり、逆に マイナスになる部分では振幅が小さくなるような変化をします。これを 式で書くと次のようになります。

vAM(t) = V0sin(2πf0t) × (1 + Av(t))

ここで、V0sin(2πf0t)が高周波の 正弦波、v(t)が低周波の信号を表します。また最終的に得られる vAM(t)がAM変調波となります。定数 AAMにより、変調の深さ(変調度)を設定することができます。

【実習 5-4-1】

  1. 振幅変調(AM)信号をDSPプログラムで作ってみましょう。 図のように、まずDSPボードで正弦波形を作成します(実習 5-3-4参照)。 それと外部から入力される低周波の信号に対して、上式の計算を行うと、 AM変調波が得られます。

    DSP内部で発生させる正弦波は、強度±1[V]程度、周波数は10 kHz程度に すると良いでしょう。また振幅変調を計算する際の定数AAMは 1としておいてください。
  2. SGから数百Hz〜数kHzの正弦波や方形波を入力して、オシロスコープで 出力波形を観測してみてください。入力信号の大きさを何[V]程度にすると、 きれいなAM信号が得られるでしょうか。


5-4-2. 周波数(FM)変調

周波数(FM)変調は、FMラジオやテレビの音声などで用いられている 変調方式です。 低周波の入力信号の変化に応じて、高周波の正弦波の周波数を変化させます。 入力信号がプラスになる部分では周波数が大きくなり、逆にマイナスになる部分では 周波数が小さくなるような変化をします。これを式で書くと次のようになります。

vFM(t) = V0sin(2πft)

ただしf = f0 + AFMv(t)

ここで、V0sin(2πft)で与えられる高周波の 正弦波の周波数fを、低周波信号v(t)で変化させると、 FM変調波vFM(t)が得られます。また、定数 AFMにより、入力信号の振幅変化に対する周波数変化の 大きさ(変調指数)を設定することができます。

【実習 5-4-2】

  1. 周波数変調(FM)信号をDSPプログラムで作ってみましょう。 図のように、DSPボードに入力した低周波の信号電圧に応じて、 DSP内で正弦波を作成する際の周波数fを変化させます。 一般的に、このような働きをするものを電圧制御発振器(VCO)と 呼んでいます。

    上式におけるVCOの中心周波数f0を 10 kHz、また定数AFMを1000程度にしてください。
  2. SGから数百Hz〜数kHzの正弦波や方形波を入力して、オシロスコープで 出力波形を観測してみてください。